しぶちん

しぶちん
しぶちん
山崎豊子
(新潮文庫)

 先月の 『五日のあやめ』 で桂あやめさんが演られた落語「船場ぐるい」の原作を読んでみました。
 山崎豊子の処女短編集 『しぶちん』 には、表題作のほかに「船場狂い」「死亡記事」「持参金」「遺留品」の全 5 編が収録されています。


 落語「船場ぐるい」の原作はもちろん「船場狂い」。堂島に生まれ育ち、船場の暮らしにあこがれる主人公・久女くめの執着心を描いている。この久女の心情描写が事細かで、船場に猪突猛進なところが滑稽に思えるほど。

 振り返って、落語「船場ぐるい」は(あたりまえだが)会話劇を中心に構成されており、船場への執着心を内に秘めながらも外面は船場風を装う久女の心情を、ときに必死に、ときにいじらしく、落語ならではの笑いもまじえていきいきと描写。近所の子供が「船場の真似したはる人の真似してんねん」と云うサゲに、世間の嘲笑も耳に入らぬほど、入っていたとしてもどこ吹く風で船場への想いを初志貫徹した久女の本気がうかがわれる。
 久女の船場マニアと云う極端なキャラクターが、時代劇に親和性のある落語に上手く溶け込み、原作のおもしろさが活かされたエンターテインメントとなっている。


 とまぁ、理屈はどうあれ、とにかくおもしろかったです。大阪商人の真骨頂を描いた「しぶちん」も落語になりそうなおもしろさを秘めてますし、その他の現代劇もなかなかにたのしめました。
 なによりも、短編集なんで通勤途中に手軽に読み切れたってのが良かったのかも。

 女席亭の一代記を描いた 『花のれん』 も読みましたが、こちらもおすすめ。往時の実在の噺家の名前も出てきたりして、リアルな寄席の風景が浮かびます。

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おとぎの国、チェコからの贈り物 ヴィンテージしかけ絵本展

 とある落語ファンの方から絵本展の情報をいただきまして、難波から肥後橋へバスで移動し、地図を片手に Calo Bookshop & Cafe へ行ってまいりました。チェコの古書店で見つかったヴィンテージしかけ絵本の展示と販売です。

 チェコはしかけ絵本を世界各国に輸出していたそうで、展示されてたものも、英・仏・伊・蘭・独・日・等々、各国語のものがありました。
 70 年代に製作されたものが中心で、仕掛けと云ってもごくシンプルなものです。サブダのは「いかにして立体物を本の見開きに畳み込むか?」と云う発想で、180 度に開いた本の上に立体物を貼り付けるように作られてます。一方、ここで見られた本は「いかにして平面から立体を起こすか?」と云う発想で、本に切り込みを入れて起こしているため、本は直角に開いて見る形になります。なもんで、横からのぞくと切れ込みが丸見え。これはまぁ、当時の製本コストとの兼ね合いもあるからだと思いますが。 こちら で写真が見られます。

 展示はヴォイチェフ・クバシュタの作品が中心なんですが、この人の絵が独特で、かなり気に入ってしまいました。太い描線がやわらかく、あったかい雰囲気です。動物をモチーフにした作品が多く、どれもかわいく描かれてます。買おうかどうかかなり迷ったんですが、とりあえず今回はペンディング。
 京都会場では別のが展示・販売されてるそうで、そっちも気になってます。

Calo Bookshop & Cafe 12/30(土)まで (日・月は定休日)
京都精華大学 shin-bi 1/14(日)まで (1/1 休)

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フェルマーの最終定理

フェルマーの最終定理
フェルマーの最終定理
サイモン・シン
青木薫 訳
(新潮文庫)

 工業高等専門学校(高専)は高校と短大が合体したような 5 年間一貫教育による工学系の学校で、こと数学に関してはかなり高度なところまで学ばされます。と云うのも、専門教科で必要となる数学理論・技術を早い段階から身につけておく必要があるからで、微積分なんかは専門教科の授業で「意味はそのうち数学で習うから、とにかくやり方だけ覚えなさい」ってな感じで無理から覚えさせられました。
 4 年生くらいになるといろんな定理の証明なんかも出てきて、講義を聴いてると高い山頂に向かってスーッと道が見えてくるような、目の前の霧がスーッと晴れてくるような、なんとも心地良かったのを覚えています。

 大学に編入してから、どこかで「フェルマーの最終定理が証明された」ってのは耳にしてましたが、「なんかスゴいな」とは思ったものの、そのときはとくに調べるまでもなく過ごしてしまってました。
 で、この 『フェルマーの最終定理』 を書店で見かけたのが今年の 6 月くらい。帯タタキの「『博士の愛した数式』副読本。」には「ちょっと違うやろ?」と首を捻りつつ、どのような過程で証明されたのか興味があり、読んでみようと思って買いました。


 まず、フェルマーの最終定理をご紹介。

【フェルマーの最終定理】

2 より大きい自然数 n (3, 4, 5, ‥‥) について,

  xn + yn = zn

を満たすような 0 以外の自然数の組み合わせ (x, y, z) は存在しない.

 定理自体は非常にシンプルです。ただ、これがフェルマーの残したメモに「余白が狭すぎるのでここに証明を記しことはできない」とだけ書かれていて、以来 300 年以上証明されずにいたと云うものです。

 似たような定理に、ピュタゴラスの定理があります。

【ピュタゴラスの定理】

直角三角形の斜辺の長さを c とし,残りの 2 辺の長さをそれぞれ ab とするとき,

  a2 + b2 = c2

となる.

 これは小学校か中学校で習う定理です。この定理はどのような直角三角形に対しても成立し、さらに (a, b, c) の組み合わせが自然数となるものがあることも知られています。(たとえば (3, 4, 5) (5, 12, 13) など)

 シンプルなのに証明できないと云うことで多くの数学者を魅了してきたフェルマーの最終定理が 20 世紀末、すなわち我々の生活している今の世の中で証明された、このことだけでもなんだかワクワクしてきませんか?
 この本では、まず前半で数学を取り巻く歴史をおおまかにたどりながら、後半でフェルマーの最終定理が証明されるに至った歴史をつぶさに紹介されています。そのなかに日本人も登場し、世界の歴史に日本も貢献したんだなぁあと思うと感慨もひとしおです。
 ときおり数式も出てきますが、難しい証明の内容、とくにフェルマーの最終定理に関しては、ごく簡単にとどめられています。それよりも、証明に関わった人々、とりわけ最終的に証明を完成させたアンドリュー・ワイルズのドラマにスポットが当てられます。証明の内容はわからなくとも、それが徐々に構築されてゆく様は圧巻で、この本のクライマックスとなっています。
 フェルマーの最終定理が証明されたあとの数学界については、余談のようで、しかも後味の悪い内容でもあり、ややダレ場にも感じられますが、それだけフェルマーの最終定理の証明が崇高な業績だっんだと云えるでしょう。


 数学嫌いの方にはオススメできませんが、そうでない方にはぜひ読んでいただきたい 1 冊です。とくに理系出身の方には興味深く読めるのではないかと思います。

 で、帯タタキの「『博士の愛した数式』副読本。」ですが、本文中に完全数に関する解説があって、あながち違うとも云い切れんかなぁ‥‥とは思いました。

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MOMMY?

MOMMY?
MOMMY?
Maurice Sendak
Arthur Yorinks
Matthew Reinhart

 学生の頃から絵本収集が趣味で、現在も細々と続けてるんですが、なかでも 『かいじゅうたちのいるところ』 でおなじみのモーリス・センダックの独特のタッチが好きで、気に入った本をときどき買ってます。

 また、飛び出す絵本は作者によらず好きで、これはとにかく視覚的におもしろいのがあるとついつい買ってしまいます。飛び出し度がアップすると、こっちの興奮度もアップします。

 で、このたび、センダック初の飛び出す絵本が登場という情報を発売前にキャッチし、両方の要素が合体した初の作品ですから、わざわざ予約までして購入してしまいました。(そのわりには積ん読状態だったんですが‥‥)
 タイトルは 『MOMMY?』 で、表紙はミイラ男に抱き上げられた子供。モンスター好きとしてもかなりそそられるタイトル&表紙です。
 内容は、子供が街で「Mommy?」とたずね歩くと、その都度違ったモンスターに出くわす‥‥ってだけの話で、オチはなんとダジャレ。なもんで、日本語版が出るかどうかは微妙です。まぁセリフもほとんどなくて飛び出すイラストをたのしむって感じの本なんで、洋書でもぜんぜん OK でしょう。

 ここで紹介したのは 米語版 ですが、ほかに 英語版スペイン語版 が出てるようです。よっぽどのマニアは全部買うんでしょうね。

 プロレス界では メカマミー が猛威をふるってますし、今年はミイラ男の当たり年なのかも。‥‥って、んなわけないか!?!?

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完本・突飛な芸人伝

完本・突飛な芸人伝
完本・突飛な芸人伝
吉川潮
(河出文庫)

 高岳堂さんの記事 で祝々亭舶伝さんのことが書かれていて、ちょっと気になって検索してみるとこの本がヒット。舶伝さん以外にも、月亭可朝・月亭八方の師弟、川柳川柳、ショパン猪狩など、気になる芸人さんが多数。
 さっそく読んだんですが、これがおもしろい。こう云う本って往々にして東京の芸人さんが中心になりがちなんですが、関西の芸人さんが 3 分の 1 ほどを占める構成で、著者の見識の広さがうかがわれます。

 それぞれの芸人さんの半生を、多彩なエピソードで構成。かなり取材されてるようで、それぞれのエピソードがなまなましく、読んでると当時を追体験しているよう。
 雑誌連載時から 20 年、最初の単行本刊行から 18 年たっているため、附記・追記のかたちで近況などもフォローされてます。このあたりに著者の芸人・演芸への愛が感じられますね。

 解説は春風亭昇太さん。短い文章ながら、彼の考える芸人像がかいま見られます。

 通勤時や整骨院の待ち時間なんかに読みましたが、各項 15 ページずつくらいなんで、ちょっとした時間に読むのにちょうど良いです。演芸ファンのみなさん、ご一読を。

 なお、新潮文庫からも出てますが、そちらは一部の芸人さんの項がカットされています。おなじ読むなら《完本》と銘打った河出文庫版がおすすめ。
 参考までに、河出文庫版の目次を載せておきます。

  • 借金のタンゴ ―― 月亭可朝
  • 川柳の賛美歌 ―― 川柳川柳
  • 八つの顔の男だぜ ―― 林家木久蔵
  • 野球狂の唄 ―― ヨネスケ
  • 喧嘩エレジー ―― 石倉三郎
  • 究極の貧乏 ―― 祝々亭拍伝
  • 与太郎の青春 ―― 柳家小三太
  • 男の顔は履歴書 ―― マルセ太郎
  • 神様のヨイショ ―― 古今亭志ん駒
  • 音頭とるなら ―― 桂文福
  • 歌舞伎座の怪人 ―― 快楽亭ブラック
  • ホラ吹き男爵 ―― ポール牧
  • ドツかれる女 ―― 正司敏江
  • ヘビの軌跡 ―― ショパン猪狩
  • 白塗り仮面 ―― 桂小枝
  • 春日部の名士 ―― 林家正楽
  • 六甲おろしに颯爽と ―― 月亭八方
  • ホンジャマーの男 ―― 早野凡平
  • 浪花アホ一代 ―― 坂田利夫
  • 酒と馬鹿の日々 ―― 春風亭梅橋

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しゃべれども しゃべれども

しゃべれども しゃべれども
しゃべれども しゃべれども
佐藤多佳子
(新潮文庫)

 TOKIO の国分太一くんが映画『しゃべれども しゃべれども』に主演、柳家三三さんから落語の指導を受ける、ってニュースを見て、原作が気になったんで読んでみました。

 二ツ目の噺家・今昔亭三つ葉のもとに、いろんな理由で落語を習いたいと集まった、綾丸(テニス・コーチ)、十河(OL)、村林(関西弁の小学生)、湯河原(元プロ野球選手)の 4 人。三つ葉も含めて、それぞれがそれぞれに悩みを抱えながら、反発し合いながら、それでも落語だけをよりどころに三つ葉のもとへ集まる。‥‥ってのが導入部。

 とにかくみんな、なにかしら悩んでる。それは仕事であったり、恋であったり、人間関係であったり。そのあたりがなんともリアルな日常的で、個性的なキャラクターと相まって、世界観に不自然さがあまり感じられませんでした。(ただ、私は東京の落語界事情には疎いんで、フィクションとしても不自然なところはあるのかもしれませんが)
 村林に爆笑型の枝雀をすすめるあたり、なかなかええとこ突いてるなぁ、と。登場人物は架空ですが、鈴本演芸場が出てきたり、バック・ボーンは詳細に取材されてる様子がうかがえます。あと、着物やなんかの描写が詳細で、そのあたりの趣味のある方はよりいっそう楽しめそう。

 落語好きでフィクションも楽しめるって方はご一読を。着物好きなら、なお。


 ちなみに、「太一が三三に弟子入り」関連のニュース・ソースはこちら↓あたりを。

国分太一が落語家役、弟子入りも (スポニチ)
国分太一、単独初主演映画で落語 (日刊スポーツ)
国分太一が映画に単独初主演…落語家役、柳家三三のもとで修行 (サンケイスポーツ)

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兎の眼

兎の眼
兎の眼
灰谷健次郎
(角川文庫)

 『たまの気まぐれコレクション』の予習で、灰谷健次郎の『兎の眼』を読了。


 大学を卒業したばかりの新米教師、小谷先生が担任する 1 年生のクラスに、無口だが気性の荒い鉄三がいた。鉄三はハエを飼っていたり、突然凶暴になったりで、小谷先生は理解に苦しむ。しかし、同僚で変わり者の足立先生との対話から子供たちへの向かい方のヒントを掴み、鉄三らと接しながら手探りで自分なりの教育方法を模索する。


 ‥‥ってのが導入部のあらすじ。その後、小谷先生とそのクラスの子供たちが成長してゆく過程がつづられます。

 読了後、「こりゃ、もっと早く読めば良かった」と思いました。また、「最近の教師や親たちは、これ読んでんのかな?」との疑問も浮かびました。
 ネットでいろいろ調べると、本作をはじめ、灰谷作品については賛否両論あるようです。たしかに、小説は理想にすぎないって意見もあるでしょうし、現実の教育現場はもっと複雑だって意見もあると思います。
 ただ、本作を読むことでいろいろと考えるきっかけになると思います。子供が読むのと、大人になってから読むのとでは、とらえ方がかなり変わってくると思います。子供が読めば、いじめや差別について考えさせられるでしょうし、大人が読むことで、教育について、子供との対峙の仕方、距離の取り方について考えさせられるでしょう。

 小学校で 3 年間担任だった先生がこの本をおすすめしてたんですが、当時は推理小説を中心に読んでたこともあって未読でした。読んでみて、なるほど納得って感じでした。

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恐竜時代

Encyclopedia Prehistorica Dinosaurs
恐竜時代
エンサイクロペディア
太古の世界

ロバート・サブダ
M. ラインハート
わくはじめ

 以前ご紹介したロバート・サブダの『Encyclopedia Prehistorica Dinosaurs』ですが、今年は恐竜展が多いからか、日本語版が『恐竜時代―エンサイクロペディア太古の世界』と題して出てました。
 解説文がかなり多いんで、小さいお子さんがおられる家庭では日本語版の方がよろこばれるんではないかと思います。私自身は見てるだけで満足できてますが。

 私が天王寺の某書店で見たときには恐竜関連書籍のコーナーができていて、そこに山積みになってました。見本があったかどうかまではチェックしませんでしたが、あの分厚さはかなりインパクトがあると思います。見本を置くと、ボロボロになったり、見本で見て満足してしまう人も多いと思いますんで、代表的なページの見開き写真なんかを印刷してポップで紹介なんかすると、かなり売り上げが伸びるんではないかと思います。

Robert Sabuda

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飛び出す絵本

Encyclopedia Prehistorica Dinosaurs
Encyclopedia
Prehistorica
Dinosaurs

Robert Sabuda
Matthew Reinhart

 学生時代から細々と続けてることに絵本収集があります。日本人だと安野光雅や黒井建、外国人だとモーリス・センダックやビアトリクス・ポターなど。それぞれスタイルは異なりますが、独特なタッチが気に入ってます。
 それとは別に気になるのが《ポップ・アップ》、すなわち《飛び出す絵本》です。本を開くとその世界が飛び出してくるワクワク感。本と云う本来 2D のメディアから 3D へ展開されるビックリ感。とにかく楽しいです。

 これまでもピーターラビットのなんかを何冊か持ってたんですが、去年知ったロバート・サブダの作品群はとにかくスゴい!
 なにがスゴいって、まず厚さがスゴい! これまで持ってた飛び出す絵本ってせいぜい 2 cm くらいの厚さなんですが、サブダのは 5 cm くらいあります。もうねぇ、本を開く前から期待感が高まりますよ、これは。
 そして、これでもかってくらい飛び出すのがスゴい! こればっかりは見てもらわないとなんとも云えないんで、『不思議の国のアリス』の一節をどうぞ。

 サブダの作品はかなり手が込んでますんで、新作は年に 1〜2 作くらいのペースです。で、最近出たのが『Encyclopedia Prehistorica Dinosaurs』って恐竜本。私は恐竜も好きですから、さっそく購入。いやぁ、今回も素晴らしいです。各見開きに大きなポップ・アップが用意されてるんですが、脇の小さい開きに肉食恐竜が肉を引きちぎる様が再現されていたり、とにかく凝ってます。届いた日には何度も開いたり閉じたり。楽しいですねぇ。

 仕掛けが複雑なんで、小さいこどもだと破ってしまう危険性があります。小さいお子さんはお父さん・お母さんといっしょに楽しむのがベター。本が好きなら 5 歳くらいからひとりでも楽しめるんではないでしょうか。もちろん大人も楽しめますよ。

Robert Sabuda

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